
旅日記 No.16
宇和島じゃこ天物語
| 平成 11年 |
9月25日 |
9月26日 |
| 目次 | PART
1 1.宇和島へおいで 2.おはようさん 3.てんやわんや@−W邸大掃除− 4.てんやわんやA−游の里迷走− 5.海鮮居酒屋「がいや」 |
PART 2 6.「和霊さん」と歴史資料館 7.宇和島城 8.薬師谷温泉 9.宇和島で一番おいしいじゃこ天 10.てんやわんや(終)−善助餅− 11.またおいで |
| 交通 | 福岡→(JAS871)→松山 →(JR特急宇和海)→宇和島 |
宇和島→(JR特急宇和海)→松山 →(JAS874)→福岡 |
旅日記「宇和島じゃこ天物語」について
司馬遼太郎が愛し、小説『花神』の舞台の一つとなった宇和島。私のお気に入りの町でもあります。
私のお気に入りの町でもある宇和島へ知人のW氏を訪ねます。部屋の大掃除をする羽目になり、温泉に行っては車をぶつけ、と散々な目にあいながら、なぜか楽しく過ごし、じゃこ天、鯛めしと郷土料理に舌鼓を打ちます。二日目は和霊神社、宇和島城、そして思わぬ穴場、渓谷に面した露天風呂を訪ね、精一杯楽しみ、最後はちょっとおセンチな気分になりました。この旅日記に登場するW氏は、獅子文六の『てんやわんや』の登場人物のような、楽しく、春風のような人です。
PART 1 9月25日
1. 宇和島へおいで
7月の松江旅行の帰り、福岡空港で知人のW氏(宇和島市在住)と会い、「宇和島に遊びにおいで」とのお誘いをいただいた。宇和島といえば、伊達十万石の城下町、司馬遼太郎の『花神』の舞台。何度か訪れたことがある、大好きな町。「ぜひともうかがいます」と喜んで返事をした。
W氏は「来年あたりはリストラになって、宇和島にいないかもしれない」という。遊びにいくなら今年中。ちょうど9月25・26日が土・日で連休となっている。遊びに行く絶好の機会。氏は出張が多い人なので、ぎりぎりまでチケットはとらず、四日前の21日、JASの無料航空券で申し込む。帰りの便は、最後の一席で、滑り込みセーフ。
チケットは取れてW氏の出張が入らず、良かった、と思っていたところに台風が接近してくる。九州への上陸時刻に気をもんでいたが、24日中に通過し、25日は無事出発できた。
2. おはようさん
9月24日は日勤で、夜はなかなか眠れない。朝3時過ぎにようやく睡眠にはいり、6時に起床。軽く朝食を取り福岡空港へ。JASのカウンターでカードを提示し、無料航空券を発行してもらい、W氏へのおみやげを購入。洋菓子と、高菜。
搭乗ロビーからW氏の携帯に電話を入れる。電話は通じたものの、氏の「ハッハッハッ」という高笑いの声だけが聞こえ、切れる。携帯の調子が悪いのかなと思っていたが、私のPHSにW氏から電話が入る。「おはようさん。さっきは会社にいたんで、私用の電話はしにくくてね。(松山から)JRに乗ったら(宇和島に)12時40分頃に着くから。迎えに行くからね」
9時30分発のMD81型機に搭乗する。離陸した飛行機は、大分上空を通過。大分・別府市街、そして以前訪れた杵築市も見える。豊後水道の上空からは、佐田岬が見える。やがて飛行機は松山空港へ。
JAS871便松山行(福岡空港にて) 空港からJR松山駅までは2年ほど前に新しくできた道をり、10時30分に到着。宇和島行きの特急「宇和海」出発までは小一時間ほどあるが、道後温泉などに行くには短い。駅の売店などをぶらぶらして過ごす。
11時30分、上りの列車到着が送れていたため、5分遅れで宇和海は出発する。途中内子駅でも遅れを待ち、八幡浜駅では先発の普通列車が途中立ち往生している、とのことで、宇和島には9分遅れで到着。
3.てんやわんや@−W邸大掃除−
駅につくと、W氏が迎えに来ている。まずは昼食。宇和島名物「鯛めし」を食べましょう、と海鮮居酒屋「がいや」へ行くが、営業は夜だけらしく、中華料理屋へ向かう。
ひなびた町の中華料理店で唐揚丼と冷麺のランチを食べる。W氏はお馴染みの店のようで、ささと水を持ってくる。氏は、ダイエット中とのことで、漢方の痩せ薬を飲んでいる。そのためあまり食欲がなく、唐揚丼の半分を「食べきれないから」と、私の皿に入れる。「食べないと体に良くないのではないですか?」と訪ねると、少し体がだるくなるとのこと。
「午後は佐田岬にでも行ってみようか」とW氏は言うが、佐田岬までは往復で6時間ほどかかるらしい。W氏を疲れさせるのも気の毒だし、私も昨日は三時間も寝ていないので「今日は(W邸で)ゆっくりして、夕方近くの温泉にでも行こうか」ということになる。
車中、私が「宇和島は言葉が優しくて良いですね」と言うと、関西出身のW氏は、「芦屋の言葉の方が優しいよ。(宇和島のような)漁師町は(言葉が)荒いよね」という。
車窓からJR駅が見える。宇和島はここ数年、新しいホテルが数件できて、競争が激しくなっているようだ。特に昨年宇和島駅リニューアルと同時にオープンした、JR四国の「ホテルクレメント宇和島」は、立地も良く新しいため、人気が高いそうだ。他のホテルは5000円台の低価格で対抗しているらしい。
さてW邸は、駅から程近い、あまり新しくないマンションの2階にある。部屋に入ると「フルーツをどうぞ」と梨と葡萄が出てくる。梨の皮を剥いて食べるが、台所がものすごい状態になっていて、とても炊事を行えるような状態ではない。
見るに見かねて、W邸大清掃が始まるが、どこから手をつければ良いのかわからない。とりあえず、食器を洗い、流しと壁とその横の冷蔵庫を磨く。W氏は有線放送の競馬中継を見ながら「あんまりやりすぎると、疲れるよ」と、のんきな声をあげている。無料航空券でやってきたとは言え、そのために一万マイルを費やして、台所の掃除をしているというのも、複雑な気分だ。これなら、佐田岬に行った方が良かった、と後悔する。
このまま掃除を続けていれば、蟻地獄状態になり、夜まで終わらないと思い、トイレの掃除をして、適当なところで切り上げる。枕を出してもらい、空調が良く効いた部屋で、昼寝を楽しむ。W氏は、台所をのぞいて「まあ、きれいになったな」と言っている……。
4 てんやわんやA−游の里迷走−
午後五時すぎ。昼寝から目覚める。体がだるくてあまり動きたくないが、このまま一日を終えるのも悲しい。温泉に出かけることにする。ガイドブックを見て、それほど遠くない、宇和町の温泉の方へ。
車に乗り出発。途中W氏は書店に立ち寄り、注文していたCDを購入する。氏は、あまり車間距離を取らない。前の車がそれほどスピードを出していないのに、いきなり加速したりする。思わず足が突っ張り、体に力が入る。
吉田町のあたりは海沿いの道。窓を開け、冷房を止めて潮風に吹かれる。やがて坂道を上り、法華津峠へ。幾つものトンネルが続き、かつてはこの峠を越えるのは、大変だったことが想像できる。
やがて宇和盆地に入り、車は右折し山の方へ。十分ほどの所に温泉施設への進入口がある。細い路を下り、野村ダムの湖上の道を抜けると、「游の里温泉・ユートピア宇和」。入浴料400円を払って中へ。露天風呂はないが、大きなガラス張りで開放感はある。泉質を見ると、「低張性アルカリ性冷鉱泉」とある。
風呂から上がる。W氏はパンツ姿のまま、冷たい飲み物を買ってくる。ウーロン茶をいただく。自販機コーナーを探しに行き、間違って女湯に入りかけてしまったそうだ。建物を出て車に戻ろうとすると、猫がいる。W氏は車から菓子をもってきて、「これをお食べ」と与えている。
ユートピア宇和を出ると、左方向に「宇和町方面」の標識がある。そのちょっと先、直進しかけると右方向に「宇和町方面迂回路」の標識がある。W氏は「こっちかな」と言い、バックすると、「ガシャッ」という音と共に衝撃が起こる。真っ暗だったため、コンクリートの壁にぶつかってしまった。私は思わず「ウワッ」と声をあげ、降りて傷をみようと思ったが、W氏は「ちょっと、こすったかな?」と、悠然と運転を続けける。
右手に進み、山の中の細い路を登る。来たときの道のりを考えると、すぐに大きい道路に出るはずなのに、おかしい。そう考えていると、台風のためか、大木が倒れて道路を遮断している。道を間違えたことに気がつき、Uターンして戻る。
先ほどの直進する方の道を進む。「人騒がせな標識だね」と言いながら再び坂道をかなり登る。が、いつまでたっても宇和町への道路に出ない。また、道を間違えたことに気がつく。W氏は「このまま進めば、どこかの町に出るよ」と言う。やがて、民家が見える。「温泉に行って道を聞くのも恥ずかしいね」と言って、そのまま進むが、やがて道がいよいよ狭くなり、民家の前に出る。さすがに、「このまま行ってはまずい」という思いが二人の頭の中をよぎる。
二人して車をおり、民家の玄関をあけて、「ごめん下さい」と声をかける。おじさんが出てくる。W氏は「温泉にいって道に迷ってしまったんです。宇和町へ戻るにはどう行ったら良いですか」と尋ねる。おじさんは、「来た道を戻ってください。温泉を出てすぐ右に曲がれば宇和町への道に出たんです」とこたえる。考えてみれば、ユートピア宇和を出て、標識に従って左に進んでいた。右に曲がれば良かったのだ。
車の後ろを見てみると、右後ろのバンパーがゆがみ、車体から外れている。ちょっとこすったどころではない。W氏も、予想していたよりもひどかったらしく、ショックの色を隠せない。
ユートピア宇和の前を通り、野村ダムの湖上の道を抜けて、宇和町へ出る。法華津峠のトンネルを抜けて、宇和島へ戻る。W氏の運転は相変わらず車間距離を取らず、体に力が入る。途中振動音がする。宇和島市内に戻ってコンビニに車を止めて見てみると、バンパーがさらにはずれ、地面にこすれていたようだ。それでもW氏は平然と運転を続ける……。
宇和島近郊地図
5.海鮮居酒屋「がいや」
夜8時過ぎ、ようやく夕食となる。昼間閉まっていた、海鮮居酒屋「がいや」へ。宇和島第一ホテルの裏手にある。以前はホテルの直営だったらしいが、今は独立経営になっているようだ。大変賑わっていて、駐車場に車を止めるのも一苦労。一台出たところに滑り込む。
中に入ると、空席待ちをしている人もいる。二人ということもあり、2〜3分で座ることができた。席に着くと、カウンターの中の人が大きな櫓のようなものに枝豆とお絞りを載せて私達の目の前に「どうぞ」と差し出す。一寸驚くが、面白いサービスだと思った。カウンターの中では焼き物を料理していて、調理とサービスが一体となっている。爽やかで威勢の良さを感じさせつつ、優しい口調で接客して、独特の感じの良さがある。カウンターの中には三人いるが、皆同じ雰囲気。店の教育によるものだろうか?
W氏はまず、じゃこ天と刺身、ついでサラダに宇和島名物「鯛めし」を注文する。じゃこ天はアツアツ。刺身は厚くプリプリとした食感。私はどちらかと言えば肉が好きなのだが、新鮮な食材を味わうと、魚もおいしいと思う。
そして鯛めし。宇和島地方のものは、醤油ベースの出汁に、うずらの卵と鯛の刺身が出てくる。最初は食べ方がわからず、出汁に卵を入れてかきまぜ、鯛の刺身をつけて食べていたが、W氏が笑いながら、「鯛の刺身は出汁にいれて、それをご飯の上にかけるんだよ」と教えてくれる。豪快でおいしく、食が進む料理である。ここでもW氏は食べきれないからと、自分の鯛めしの半分を私のお碗に入れる。さすがにお腹がふくれてパンパンになる。
食事の途中を見計らって、カウンターの中の人が、今度は冷たいおしぼりを出してくれる。アルコールが入り、少し暑く感じていたところなので、冷たい感触が気持ち良い。W氏は「どれが一番おいしかった?」とたずねる。私は「じゃこ天や鯛めしもおいしかったけど、刺身が予想以上においしかった」とこたえる。
車で戻る。途中、国道からはライトアップした宇和島城の一際美しい姿が見える。カーラジオからはダイエーの優勝インタビューが聞こえる。W氏は慌てて携帯を取りだし、取引先に「おめでとうございます」と電話をしている。
さて、W邸は洗面台もだいぶ掃除していない様子。歯を磨き、掃除にとりかかる。散乱している化粧品や櫛、歯ブラシをまとめ、使っていないようなものはW氏に確認して捨てる。台所からクリームクレンザーを持ってきて洗面台を磨く。我ながらきれいになったと思う。しばらくしてW氏が部屋から出てきて、「きれいになったね」と半ば驚き、喜んでいる。だが、風呂場を見て「こっちはまだか」とつぶやいている。ついでに掃除してもらいたいような雰囲気だが、疲れてしまったので聞こえないふりをする。
部屋には九官鳥の餌がある。つい最近まで飼っていたらしいが、逃げ出してしまった。その前はチャボがいたそうで、天寿をまっとうしたそうだ。いつも座椅子の上に留まっていたのだが、ある日、ポトリ、と床に落ちてしまった。W氏があわててレモン水を与えると、目を覚まし、倒れたまま氏をじっと見ていたそうだ。W氏は言う。「いままで可愛がってくれてありがとうって語りかけるているようで、とてもかわいそうだったよ」
しばらくテレビを見て、就寝する。